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銀杏峰

印刷用ページを表示する 更新日:2018年9月19日更新

 「ぎなんぽう」または「げなんぽ」と地元の人たちが呼ぶこの山は、大野市街の南方の後背に屏風のように連なる1440mの山である。
 二万五千分の一地図でみると、名刹宝慶寺の真南に大きな山塊が横たわっており、その広い尾根は西に伸びて部子山に連なっている。昔から山スキーを趣味としていたから、名前のイメージが銀色に輝く秀麗な峰を連想させるこの山には興味を持っていた。
 地図上で尾根や谷筋をたどりながら、滑り降りるコースをあれこれと思い描くのも山スキーの楽しみのひとつである。地図で見ると部子山方面や、ふもとの「木の本」までツアースキーのコースがとれそうなのだが、雪のシーズンの登攀ルートや下るコースなどがわからず、そのきっかけがなかなかつかめなかった。ところが、4年前に大野市の山岳関係者Mさんの案内で、ようやく山スキーシーズンに登る機会を得た。

雪原に映える霧氷 当日は宝慶寺から「いこいの森」公園へ入る林道を車で上がり、除雪状況がよかったので、さらに上の登山道駐車場まで行くことができた。車を置いて登り口の鳥居をくぐり、潅木の急尾根を直登すること3時間余りで頂上に着く。頂上は想像以上に広く平らで、その広大な雪原は、急な尾根と好対照にのどかな雰囲気がある。好天だったから、大野盆地から加越国境、白山、福井市や福井臨港まで一望できた。

 昼食を済ませて、いよいよ山スキーの真髄の滑降にかかる。身支度を整え、頂上から大野盆地を眼下にしながら「木の本」方向に伸びている広い尾根を快適に滑り始めた。しかし、滑り始めてすぐにガイドのMさんが、尾根の途中で止まって下を覗いている。雪庇の状態でも確認しているのかと思って声をかけると、これからこの谷を滑り降りるのだという。いっしょに覗いてみると、足元からほぼ垂直と錯覚するようなカール状の急斜面が、はるか下、宝慶寺の方向に続いている。

 ツアースキーは、小学生の頃から父親に同行して始めて以来、加越国境や経ヶ岳、法恩寺山など近郊の山々をベースに、現在まで続けてきたから、経験は浅くはない。ただ、一般的にほとんどのコースが尾根筋をたどって滑り、急斜面があっても局所的なものであって、このように傾斜が40度を越す斜面が標高差約500mにわたって連続する所を滑り降りた経験はなかった。
しかも北斜面になるのでたっぷりと付いている雪は、昼夜の極端な温度変化によって氷結し、上部はアイスバーンになっている。

銀杏峰の尾根をスキーで滑走する

 急斜面を滑る上で最も大事なことは、恐怖心に負けないことだ。もちろん技術は必要だが、技術だけでは急斜面に勝てない。前傾姿勢をとり、谷底を覗く気持ちで攻撃的にターンすることだ。斜度を怖がっていると腰が引けて尻餅をつき、転倒する。アイスバーンの急斜面での転倒は、滑落につながり命取りになりかねない。未体験ゾーンに突入する緊張感が全身に走る。

 雪の状態を確かめるために、まず斜滑降でスタートする。エッジがアイスバーンに確実に効いていることを確かめてターンに入る。微妙にうねる斜面や、日照具合で変化している雪質状況を読みながら、気合が入ったジャンプターンを繰り返す。適度に斜滑降や横滑りなどを組み合わせながら、標高差約500mの急斜面を滑りきった。滑ってきたシュプールをたどって仰ぎ見ると、斜面が頂上に向かって壁のようにそそり立ち、まるで噴火口の底にいるような感じがする。あの急斜面を滑り降りたのだと思うと、緊張感が解けるのと同時に達成感が沸いてくる。

 一面の雪に覆われた大自然の中で、日常性とかけ離れた世界に心と体を解き放つ開放感が山スキーの魅力だが、銀杏峰の40度を越す斜面の滑降は、私に挑戦する心を掻き立たせ、山スキーの新たな面白さを体感することとなった。
 この山のいいところは、標高は高いけれど山が深くないので車を置いた場所から、比較的短時間で直登することができ、高低差1000mのコースを一気に滑って車まで帰れることだ。朝6時に自宅を出発すれば、午後2時か3時には家に帰ってこられる。この効率の良さのおかげで、多忙なスケジュールの中、今年で4年連続毎年欠かさず登っている。2週連続して行った年もあるから合計6回頂上まで登って滑ってきている。登るコース滑るコースも毎回違えて、いろいろ試してみた。

 登りは、「いこいの森」からの名松コースと、林道上部から取り付く西尾根コースがある。スキーで降りるには、雪があればどこでも自由だが、メインは東の「志目木谷」と西の「小葉谷」だ。どちらも頂上から谷に入り込む斜面がいくつかあり状況によって選択できるし、どれも必ず宝慶寺に出るから迷わない。おまけに北斜面だから雪が遅くまでたっぷり残っており、シーズンが長い。しかも上部の急斜度の滑降は、ゾクゾクする非日常の世界を体験できる。

 私にとって、スキーは特別の思い入れがある趣味だが、特にツアースキーには、多忙な日々の合間に出かけて行って、大自然の中で、命をきれいさっぱり洗濯できる無常の楽しみがある。勝山市にも取立山、烏岳、大長山、赤兎、経ヶ岳など名だたるコースがあり、それぞれに魅力はあるけれど、大野市の銀杏峰は、濃縮された山スキーの魅力を効率的に楽しむことができる点で、最近では私の格好のフィールドになっており、現在の私にはベストコースだ。

 考えてみれば、奥越に住む私たちは、このように魅力に富んだ山々に囲まれ、登り口までどこへでも車に乗って30分程度で行けて、豊かな自然の中でその恩恵を楽しむことができる。
 この恵まれた環境にあらためて感謝し、かけがえのない豊かな自然をいつまでも大事に守っていかなければならないと真摯に思っている。